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Tool · 試行版

川の魚の出現確率評価ツール(試行版)

公開日:

川の1地点の生息環境の条件を入れると、そこにすむと考えられる淡水魚を出現確率の高い順に並べて魚類相を推定します。反対に、調査で確認された魚から、その区間の生息環境を推定することもできます。コンクリート護岸などの人為的改変を加えた場合の変化も試算できます。

ご利用の前に

このツールは、ざっこCLUB代表の佐藤達也が大学院(三重大学大学院生物資源学研究科の修士課程・博士課程)在籍時に中心となって行った調査と研究を土台に、その後、佐藤達也が独自にデータの統合と再解析を重ね、モデルの構築からツールの開発までを行ったものです。

ただし、本サイトでの評価には論文化されていない河川の実測値や解析手法も含まれるため、表示される値はあくまで参考値としてお使いください。工事計画や影響評価、保護区の検討などの判断には、現地調査と専門家の判断を必ず併せてください。

原著(修士論文ほか)は、三重大学大学院生物資源学研究科 魚類増殖学研究室にあります。

希少種の保護のため、調査地点や現地での計測結果は掲載していません。

1. 水域と海とのつながり

2. 1地点の環境条件を入れる

3. 人為的改変のシナリオ(任意)

4. 推定される魚類相と出現確率(参考値)

入力した河川環境の条件から推定される淡水魚の生息状況(どの魚がすんでいると考えられるか)と、それぞれの魚にとってその地点が生息の適地かどうかの評価を、出現確率として示します。

川幅・水深・流速を入れると計算します。

使い方と前提

ツールには、環境条件から魚類相を推定する「環境から魚類相を推定」と、確認された魚から生息環境を推定する「魚類相から環境を推定」の2つの使い方があります。どちらも手順1の水域と海とのつながりの条件が共通で使われます。

環境から魚類相を推定

  • 手順2で入力するのは「川の1地点」の条件です。横断線を引き、その上の地点ごとに測った値を想定しています。
  • 手順1で水域と、海と川を行き来できるかを選ぶと、既知の分布からその川にいないと考えられる魚を候補から外します。アジメドジョウは志摩・熊野灘に注ぐ川には分布せず、トウカイコガタスジシマドジョウは伊勢湾に注ぐ川にのみ分布します。アユ・ボウズハゼ・シマヨシノボリ・ゴクラクハゼは海と川を行き来する魚です。
  • 結果の「推定される魚類相と出現確率」は、河川環境から推定される淡水魚の生息状況と、それぞれの魚にとってその地点が生息の適地かどうかの評価を示すもので、出現確率の高い順に並びます。数の多い普通種ほど確率が高く出やすいため、「その魚にとっての好適度」(その魚の平均的な出現確率との比較)でも並べ替えられます。出現確率の合計は、その地点で見られると期待される種数の目安です。
  • 手順3で改変のシナリオを選ぶと、改変後の想定に置き換えた出現確率を現状と並べて示します。水深・流速は設計によって変わるため、湛水以外のシナリオでは変えていません。改変後の値がわかる場合は、手順2の値を変えて比べてください。
  • コンクリートの河床そのものの影響は調査データにないため、計算に含まれていません。3面張りのシナリオでは、底で暮らす魚に◆印を付け、表示よりさらに下がると考えられることを示します。
  • 改変後に出現確率が上がる魚もあります。これは手元の調査データから得られた計算結果としてそのまま示していますが、隠れ場所やエサ場の喪失などデータに含まれない影響は反映されていないため、過大評価の可能性があります。該当する魚には注記を付けています。
  • 水温・水質は含んでいません。上下流のつながりは、手順1の「海と川を行き来できる」だけで扱っています。
  • 「データの範囲外」と表示された場合は、モデルを作ったデータにない条件での推定(外挿)なので、特に慎重に扱ってください。

魚類相から環境を推定

  • 調査した区間で、それぞれの魚が「確認された」「確認されなかった」「未調査・不明」のどれかを選び、「生息環境を推定する」を押します。確認された魚が1種以上必要です。
  • 結果の「推定される生息環境」は、魚類相のリスト全体から推定した調査区間の生息環境を、底質・石の埋まり具合・水深・流速・瀬・平瀬・淵などについて、段階ごとの可能性の割合で示します。
  • 推定の確かさは項目によって大きく異なります。モデルに使っていない河川で確かめたところ、底質と石の埋まり具合(浮石かどうか)は実際の傾向と同じ向きに推定できた一方、水深の手がかりは弱く、流速や瀬・淵の割合は当たりませんでした。流速は川ごとの条件の違いが大きく、魚の種類からは推定しにくいと考えられます。画面では項目ごとにこの手がかりの強さを表示しています。
  • 「探せば他に居そうな魚」は、確認されなかった魚や未調査の魚について、推定された生息環境の区間で探したときに見つかる確率の目安を示します。その水系に分布していることが前提の確率なので、既存の分布記録もあわせて確認してください。
  • 「多様度と環境の評価」では、期待される種数(確認された魚は1、未調査・不明の魚は区間で見つかる確率、探しても確認されなかった魚は0として合計)と、それにもとづくシャノンの多様度指数を示し、種の豊かさ・改変に弱い魚・自然度の3つの基準で点数化します。満点に対して8割以上を「良好」、4割5分以上を「中程度」、それ未満を「改善の余地あり」としています。生息場所の多様さ(瀬と淵)は検証で裏付けが得られなかったため点数に含めていません。現地調査による評価ではなく、あくまで目安です。

生息環境のイメージ画像

  • どちらの使い方でも、推定された生息環境に近いイメージ画像を表示します。
  • 水面の上と下を同時に写し、下流から上流を見た構図で、川底の底質や流れ、浮石の様子と、岸辺の植生や周囲の景観をあわせて見られるようにしています。
  • 希少種の生息場所を明らかにしないよう、実際の調査地の写真は使っていません。画像は実在の場所ではありません。

この試みについて

大学院時代、私は川の魚が川幅や水深、流速、底質といった物理的な環境のどこにすんでいるのかを調べ、その関係を統計モデルで表す研究をしていました。潜って魚を確かめ、採集して数と大きさを測り、同じ地点の環境を測り、魚が「いる・いない」を環境条件から説明する、という地道な作業です。

河川工事やダム工事、道路の改修、保護区の調査や影響評価の場面では、「そこは魚がすめる環境か」を判断する材料が求められます。けれども、その判断に使える道具が誰でも手に取れる形で公開されている例は多くありません。

生きもののすみかを、こうして評価できるサイトがあってもよいのではないか。本来は私自身が研究を続けて精度を高めていくべきものですが、研究者が努力を重ねれば、このような評価はできるはずです。このページは、その可能性を確かめるための思考実験であり、試行です。

調査の規模

2006〜2009年に三重・岐阜・愛知の河川で行った調査は、延べ約780地点・区画、確認・採捕した魚は約1万個体(うち3,700個体以上は体長も測定)にのぼります。調査地点の名称と計測値は掲載していません。

記録した項目は、魚類では種の同定、出現の有無、個体数、体長、標本の作製です。環境では川幅、水深、流速、水際植物、抽水植物、沈水植物、上空の被覆、石の埋まり具合、底質を中心に、調査に応じて水温、pH、溶存酸素、護岸の素材、標高なども測っています。魚の確認には潜水目視と、電気ショッカーや各種の網を用いた採集を組み合わせました。

ツールの計算には、このうち横断線上の地点ごとに魚と環境を記録したデータ(6河川・503地点)を使っています。それ以外の調査は、どの魚がどの水系にすみ、どのような環境の違いが魚類相の違いにつながるかを把握し、調査区間の設定や解析する変数を選ぶための土台になっています。

解析の手順

1. 調査の設計

川を瀬と淵の組み合わせとしてとらえ、調査区間に一定間隔で横断線を引き、線上の地点ごとに「魚がいたか」と「その地点の環境」を同時に記録しました。魚と環境を同じ地点で対にして得ることで、魚の出現を環境条件で説明できるデータにしています。

2. データの統合と品質管理

調査年や河川によって記録様式が異なるため、全河川に共通する9項目に護岸のコンクリートの程度(無し・一部・多い)を加えた10項目にそろえ、スコアの基準を統一してから統合しました。護岸の記録がない年の河川は、護岸のない区間だったため「無し」として扱っています。河床までコンクリートの区間(25地点)は1つの区間に限られ、その区間に特有の条件とコンクリートの影響を切り分けられないため、欠測を含む地点とあわせて除き、6河川477地点を解析に用いました。

3. 多変量解析による環境変数の点検

川の中の環境は「浮石の多い瀬から堆積物の多い淵へ」「岸寄りから流心へ」といった軸でとらえることができ、魚種ごとの棲み分けもこうした軸の上に現れます。そこでまず単位の異なる10項目を標準化し、多変量解析で変数どうしの関係を点検しました。互いに強く重なり合って、一方があれば他方が要らなくなるような変数の組み合わせがないこと(重複の指標がすべて許容範囲内であること)を確かめたうえで、10項目をモデルの候補にしています。

4. 変数選択によるモデル化

魚種ごとに、出現・非出現の2値データを扱える統計モデルを用い、情報量規準にもとづいて変数を1つずつ加えたり外したりしながら、説明力と簡潔さの釣り合いが最もよい変数の組み合わせを選びました。変数選択を行った理由は次のとおりです。

  • 10項目をすべて入れると、調査した川に特有の偶然のくせまで覚えてしまい(過学習)、ほかの川に当てはめたときの精度が落ちるため。
  • 魚種によって効いている環境は異なり(浮石の多い瀬、岸の植物、水深など)、種ごとに必要な変数だけを残すほうが、結果を生態として解釈しやすいため。
  • 出現地点が少ない魚でも、推定を安定させるため。

また、その魚が確認された河川のデータだけでモデルを作っています。もともと分布しない川の「いない」を、環境が合わないためと誤って学習させないためです。

5. 検証

複数の河川で確認された魚は、1つの河川を除いたデータで変数選択からやり直してモデルを作り、除いた河川を予測する「河川間の検証」をすべての河川について繰り返しました。変数選択も毎回やり直すため、見かけの精度が高くなることを避けられます。1つの河川でしか確認されていない魚は、その河川のデータを5つに分けて同じ手順で交差検証し、これを20回繰り返しました。精度はAUC(0.5で当てずっぽう、1で完全に判別)で示しています。

6. 掲載の基準と信頼度

AUCが0.6以上の魚を掲載しました。河川間の検証で0.75以上を「高」、0.70〜0.75を「中」、0.60〜0.70を「低」とし、1河川のみの魚は「1河川のみ」としています。入力値がモデルを作ったデータの範囲を外れる場合は、画面に警告を出します。

7. 魚類相の推定と改変のシナリオ

魚類相は、同じ入力で全魚種のモデルを計算し、出現確率の高い順に並べて推定しています。水域と海とのつながりによる候補の絞り込みは、既存の分布の知見にもとづきます。改変のシナリオは、植生・浮石・護岸などの入力を改変後の一般的な状態に置き換えて計算し直すもので、変化の方向と大きさを比べるための目安です。

8. 魚類相から生息環境の推定

環境の10項目をそれぞれ数段階に区切り、考えられる組み合わせ(約36万通り)のすべてについて各魚のモデルで出現確率を計算します。組み合わせごとの重みには、調査データにおける各条件の出現頻度を使います。そのうえで、確認された魚については「区間の数地点のどこかで見つかる確率」、確認されなかった魚については「どの地点でも見つからない確率」を掛け合わせ、魚類相のリスト全体とつじつまの合う生息環境ほど重く扱って推定します。計算はすべて閲覧している端末の中で行われ、1秒程度で終わります。

この方法は、モデルに使っていない河川の魚類相から、その河川の生息環境を推定して実測と比べる形で確かめました。区間単位では、底質と石の埋まり具合は実測と同じ向きに推定でき、水深の手がかりは弱く、流速や瀬・淵の割合は当たりませんでした。調査地点ごとの推定でも、瀬・平瀬・淵の当てはまりは偶然をやや上回る程度でした。検証に使えた河川の数が限られるため、推定は参考程度として扱ってください。

9. 多様度と環境の評価

推定された生息環境と各魚の見つかる確率から、期待される種数、それにもとづく多様度、改変に弱い魚(アジメドジョウ・アカザ・トウカイコガタスジシマドジョウ・シマヨシノボリ・ミナミメダカ)の期待数、護岸のコンクリートを伴う可能性を求め、あらかじめ決めた基準で点数化しています。

掲載している魚とモデルの概要

魚種 信頼度(AUC) 河川数・地点数(出現地点数) 選ばれた環境変数
ウグイ
Pseudaspius hakonensis (Günther, 1877)
高(0.79) 2・169(56) 川幅、水深、水際植物、抽水植物、石の埋まり具合、沈水植物、上空の被覆、底質
コイ目の稚魚(オイカワ・カワムツ等)
Cypriniformes spp. (juv.)
高(0.77) 6・477(30) 川幅、流速、水際植物、沈水植物、上空の被覆、底質、護岸のコンクリート
ボウズハゼ
Sicyopterus japonicus (Tanaka, 1909)
高(0.76) 2・169(88) 水深、流速、水際植物、石の埋まり具合
シマヨシノボリ
Rhinogobius nagoyae Jordan & Seale, 1906
中(0.74) 2・189(14) 水深、流速、水際植物、底質
カワムツ
Nipponocypris temminckii (Temminck & Schlegel, 1846)
中(0.74) 5・457(252) 川幅、水深、流速、水際植物、沈水植物、上空の被覆、底質、護岸のコンクリート
トウカイコガタスジシマドジョウ
Cobitis minamorii tokaiensis Nakajima, 2012
中(0.73) 2・68(31) 水深、水際植物、抽水植物、上空の被覆、底質
アユ
Plecoglossus altivelis (Temminck & Schlegel, 1846)
低(0.65) 2・169(52) 川幅、水深、抽水植物、底質
オイカワ
Zacco platypus (Temminck & Schlegel, 1846)
低(0.63) 6・477(259) 川幅、水深、流速、石の埋まり具合、沈水植物、底質
カワヨシノボリ
Rhinogobius flumineus (Mizuno, 1960)
低(0.61) 6・477(269) 川幅、流速、石の埋まり具合、沈水植物、上空の被覆、底質、護岸のコンクリート
アジメドジョウ
Cobitis delicata Niwa, 1937
1河川のみ(0.78) 1・120(61) 抽水植物、石の埋まり具合、沈水植物、上空の被覆
ミナミメダカ
Oryzias latipes (Temminck & Schlegel, 1846)
1河川のみ(0.78) 1・48(10) 川幅、水深、抽水植物、上空の被覆
タモロコ
Gnathopogon elongatus (Temminck & Schlegel, 1846)
1河川のみ(0.76) 1・48(19) 水深、流速
アカザ
Liobagrus reinii Hilgendorf, 1878
1河川のみ(0.66) 1・120(32) 川幅、石の埋まり具合、沈水植物
ゴクラクハゼ
Rhinogobius similis Gill, 1859
1河川のみ(0.64) 1・69(32) 川幅、水深

学名は Eschmeyer’s Catalog of Fishes(2026年9月時点)に準拠し、トウカイコガタスジシマドジョウのみ国内で用いられている亜種名で表記しています。

信頼度が低めの魚について

  • カワヨシノボリ:ほぼすべての地点で見られる川がある一方、ほとんど見られない川もあり、出現率が川によって大きく異なります。「いない地点」が少ない川からは出現しにくい条件を学べず、川の間で環境との関係もそろわないため、判別力が低くなったと考えられます。
  • アユ:群れで泳いで広く動くため、ある瞬間にいた1地点と、その地点の底質や植生との結びつきが弱くなりやすい魚です。放流の影響を受けている可能性もあります。
  • オイカワ:多くの川で広く見られ、流れの速い場所から緩い場所まで使うため、環境の違いによる差が出にくい魚です。
  • アカザ:夜行性で日中は石の下に潜んでいるため、昼間の潜水目視では見落としやすく、「いない」と記録された地点に実際はいた可能性があります。確認された河川が1つのみであることも影響しています。
  • ゴクラクハゼ:確認された河川が1つで、地点数も少ないため、精度が限られています。

これらの魚は、見落としにくい調査方法の組み合わせや調査河川を増やすことで、精度を上げられる余地があります。